12月12日(日)

 ついに来た。
 今日、私は42.195キロを走るのだ…。

 午前5時半。興奮しているのだろう、早々と目が覚める。風呂に入り、昔痛めた左膝を入念に温める。そしてさらに、キネシオテープでしっかりとテーピングし、CWーXで固定する。
 午前7時。軽い朝食をすませ、会場である宮崎県総合運動公園へ向かう。会場では既に、多くの選手が思い思いにウォーミングアップをしている。マラソン大会初参加の私、何をどうしていいのか全く勝手が分からず、ただ呆然とその様子を眺めるだけ…。
 午前8時40分。「マラソン・スタート20分前です。選手の方々はスタート位置へ移動してください」とのアナウンスが流れる。パンフレットを頼りにスタート地点へ移動する。
 

バリバリのマラソンウェアに
サンタクロースや子豚の着ぐるみなど、
思い思いの服装の人、人、人。
スピーカーから
イベントMCの華やかな声が聞こえる。
が、頭の中がぼーっとしていて
何を言っているのか内容が理解できない。
と、
周囲の選手がワサワサと動き出す。

えっ、スタートなの?
本当に私はフルマラソンを走るんだ…。

とりあえず走り始める。
いつも以上のスローペースを心掛け、
ゆっくりとゆっくりと走る。
呼吸の乱れはない。
イイ感じだ。

3キロ地点。
「お父さん、頑張ってぇ〜!」
声の先に、家族と義父。
照れ笑いで応える。

5キロ地点。
通過すると同時に
「関門封鎖まで、あと2分で〜す」
とのアナウンス。
げっ!?
そんなにギリギリのペースで走っているの…?
コレじゃマズイぞ、と気持ちペースを上げる。

10キロ地点。
体が温まってきたのか
足取りが軽くなり、快調。
腕時計を見ると関門封鎖時間より5分早い。

16キロ地点。
ますます快調、
先行するランナーを追い抜き出す。
おお、イケルぞ!
ぐんぐん加速し、
関門封鎖時間より15分早く
折り返し地点を通過する。

が…、

26キロを過ぎたあたりから
加速度的に足が痛くなる。
どんどん、どんどん痛くなる。
足のつけ根と膝と足首、
関節全てがギシギシと悲鳴を上げる。
が、
立ち止まったら二度と走れない気がする。
くそぉ、意地でも走ってやる…。

28キロの標識の手前。
古傷の左膝に、瞬間、激痛が走り、
たまらず足を止める。
おいおい、どうしたんだ?
30キロまであと2キロだぞぉ。
努めて冷静に自分に問いかける。
路肩のガードレールにすがり、
屈伸してみる。
と、
おお?痛みが軽くなったぞ…。
よっしゃ、まだイケる、と走り出す。
が、すぐに再び
鈍い痛みに襲われる。

走っては止まり、
少し歩いては走り。
騙し騙し歩を進める。
すぅ〜、すぅ〜、はぁ〜、はぁ〜
と繰り返していた呼吸が
いつしか
きつい、きつい、きつい、きつい…
との呟きに変わる。
こんなにキツイのに、
なんで俺は走っているのかぁ?
自分自身に問いかけつつ、走る。

35キロ地点。
給水所の女子高生ボランティアが
「ガンバってくださ〜い!
バナナの力を信じて、
頑張ってクダサ〜イ!!」
と、 おどけた口調で
バナナとアクエリアスを差し出す。
が、何故かその一言に異常に感動し、
思わず涙が出る。

次から次へと溢れ出る涙を拭いつつ、
少し走っては止まり、
歩いては止まり。
とぼとぼと、とぼとぼと先を急いでいると

「関門封鎖まで、あと2分で〜す」

300mほどさきの関門から声がする。
う、うそぉ…。
ありったけの力を絞り出し、
ガムシャラにダッシュする。

「あと1分で〜す」
との声を聞きつつ無事関門通過。
ぜぇぜぇと完全に息が上がり、立ち止まる。
ゴールまであと5キロを
1時間で走り切らなくてはならない。

普通なら楽勝なペースだが
この体でイケルのか…?

しばし呆然と立ちすくみ考えている自分に
ハッと気付く。

何やってるんだ。
こうしている間にも
どんどん時間は過ぎている。
せっかくココまで来たのだ。
進むんだ。とにかく進むんだ。

今度足を止めたら間違いなくアウト。
先には進めなくなる。
もはや足の関節の痛みは限度を超え、
すでに自分の足ではない。
ちきしょう、ちきしょう、ちきしょう…。
棒と化した足を地面に突き刺しつつ
前進する。

「バンバレ〜、お父さんガンバレ〜!」
朦朧とした意識の中、
チビ達の声を聞く。
ふと我に返り見渡すと、
間近にゴールのスタジアム。
そして観客席の最上段に家族と義父。
再び溢れ出る涙。
視界が定まらぬまま、なんとかゴール。

第18回国際青島太平洋マラソン
天候:曇りのち晴のち雨
記録:5時間14分28秒
参加種目:フル40歳代男子
参加者数:1.185名。種目別順位908位
フルマラソン総合参加者数4,751名
総合順位3.030位。

完走証を受け取り
痛む足を引きずりつつ車へと歩いていると
携帯電話が鳴る。

友の訃報の知らせだった。

ヤナ、早すぎるよ。